anti-doping Forum

ドーピングの副作用  Copyright by Masato Takahashi,MD

   ドーピングの副作用を考えるに当たって重要なのは投与量が多く、投与期間が長くそのために劇的な副作用が生じやすい。また複数種の薬剤を使用するので薬剤相互作用が起こりやすいことである。


禁止薬物

A. 興奮剤
   カフェイン、コカイン、アンフェタミン、エフェドリン、ストリキニーネなどである。アンフェタミンは覚醒剤である。一般的なところではエフェドリンは咳止めとして使われ総合感冒薬や葛根湯に含まれる。カフェインも同じであるが常用により、精神神経系の異常興奮や自律神経系の失調を来しやすい。また長期使用において薬効が低下するため服用量が増える。交感神経を介して心悸亢進(動悸、頻脈)、不整脈の誘発などを起こしやすい。

B. 麻薬性鎮痛剤
   モルヒネ、コデインは麻薬であり、ペンタゾシンは準麻薬である。それぞれ中毒患者がおり、幻覚・妄想に悩まされている。社会復帰に困難を要する場合が多い。

C. 蛋白同化剤
1. 男性ホルモン系蛋白同化ステロイド
   男性ホルモン製剤と蛋白同化ステロイド(アナボリックステロイド)は連続的なもので男性化作用が強いか蛋白同化作用が強いかである。しかし、必ず両者の作用を持ち合わせている。生体から分泌される男性ホルモンの代表であるテストステロンの構造を模して合成したものである。副作用は次ぎのように考えるとわかりやすい。
(1)男性化作用による副作用
   精神神経系への影響(易興奮性、攻撃性、怒りっぽい)、性的興奮(性衝動、勃起亢進)、皮膚への影響(脱毛、ハゲ、皮膚の老化、爪の変形)、動脈硬化、脂質の異常(コレステロール高値、善玉コレステロール低値、ニキビ)、声帯の肥大により声が甲高くなる。動脈硬化によるいろいろな余病、たとえば高血圧、心筋梗塞、脳梗塞などを起こしやすい。
女性の場合はクリトリス肥大など外性器の異常、月経不順・無月経、不妊、および多毛などを起こす。
(2)体内の男性ホルモン分泌の低下および女性化の影響
(3)蛋白同化作用
   骨格筋が肥大し、重量が増し、それを骨格が耐えられなくなり骨折を起こす。また外見は肥大しているが1本、1本の筋線維はかえって萎縮し、腱が減弱し肉離れを起こしやすくなる。各臓器、たとえば心臓や腎臓の不必要な肥大を起こす。心臓などは不整脈の誘因となったり、突然死を起こしやすくなる。
(4)その他
   骨髄刺激作用による赤血球、白血球、血小板が増える。そのために血液の粘りが高くなり、血栓形成を促し脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなる。また免疫系への影響が考えられ、風邪を引きやすくなったり、悪性腫瘍の発生の引き金ともなる。肝機能障害も起こることがある。
2.その他の蛋白同化剤(β2-刺激剤)
   クレンブテロールが代表であるが、β2-刺激作用により、心悸亢進(動悸)や手指の振るえ、精神的な易興奮性、不整脈を誘発しやすい。また甲状腺機能亢進症や不整脈の持病のある人の使用はきわめてまずい。

D.利尿剤
   フロセミド、スピノロラクトンが代表であるが、利尿剤の使用による血圧低下、脱水により使い方がまずいとショックを起こすこともある。電解質異常を起こすこともありさまざまな精神神経症状を呈する。

E.ペプチドホルモンおよび同族体
1.胎盤性腺刺激ホルモン(HCG)
   副作用は男性ホルモン・蛋白同化ステロイドと基本的には同じ。しかし直接HCGが女性ホルモンの分泌も刺激するので女性化が強くでることもある。
2.副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
   副腎皮質ステロイドホルモンを刺激しその分泌を促す。したがって、その項参照。
3.成長ホルモン(GH)
   成長作用により、骨端線の閉じる前は巨人症、閉じた後は末端肥大症となる。すなわちごつごつした特徴的な顔貌、各身体部分が肥大し、内蔵も肥大。また悪性腫瘍も合併しやすい。血糖値も上昇し二次性の糖尿病となる。
4.ソマトメジンC(IGF-I)
   成長ホルモンと同じであるが逆に血糖値は低下し低血糖で不用意な使い方で突然死することもある。
5.エリスロポエチン
   赤血球濃度が高まったときに脱水も絡むと血栓形成が促進され脳梗塞や心筋梗塞などで突然死を起こすことがある。


禁止方法

プロベネシド
   ドーピングをマスクする薬であるが腎不全を起こすことがある。


使用制限のある物質

1. 副腎皮質ステロイド
   感染が起こりやすくなる、潰瘍形成、うつ状態、血糖値上昇(二次性糖尿病)、満月様顔貌、骨や腱が脆弱となる。