anti-doping Forum

サプリメントの考え方  Copyright by Masato Takahashi,MD

   サプリメントは従来栄養補助食品としての側面が強かった。事実スポーツ選手が食事でとりきれない栄養を補給するためにさまざまなサプリメントが80年代以降さまざまなものが作られ販売された。特に蛋白質を補給するプロテイン、アミノ酸そのものを補給するサプリメント、また糖や脂質を中心としたもあり、ビタミン、鉄分含有のものも広く広がっている。また電解質を含むスポーツドリンクもサプリメントの範囲に入るだろう。いずれにしてもこれらのサプリメントは含有成分が明示されているものが多い。サプリメントが広く使用された結果本来食事によって摂取していた栄養分も安易にサプリメントから摂取しようとする傾向が広まっているのが現状である。サプリメントを製作している企業は国内にも外国にも多数存在している。サプリメントの中でもIOCによって使用を推賞されているサプリメントには高い信頼性が得られている。また日本でいえば日本の企業が一般に製造販売しているもの、例えば大塚製薬のポカリスエット、エネルゲンや森永製菓が販売しているウイダーのプロテインなどはその典型である。
   一方、従来の栄養食品という範囲を超えて、筋重量を増やす、筋力・筋持久力を増やす目的でさまざまなサプリメントが80年代以降製造販売されるようになった。これらは多くはアメリカ合衆国、あるいはメキシコなどで製造されているものが多い。これらを輸入代行業者を通して通信販売等で購入するトレーニング愛好者が多いのが日本の現状である。この種のサプリメントは内因性の成長ホルモンやソマトメジンを増加させること、あるいは内因性のテストステロンを増加させることをうたい文句にしたものが多い。これはまずアンチ・ドーピング精神に反しているので心情的なものからは悪質であった場合は失格にさえなりうるものである。しかも「植物の実から採った」などの生薬的なものが多くその含有成分の大部分が明らかではない。したがって、治験を経て認可される医薬品と違いその効能は絶対の信頼性がおけない。臨床検査データが明らかになっているものを見たことがないし、サプリメントに頒布される能書にもこのようなデータの記載はなくこれらの製品の流通は問題がある。だいたい、本来使うべき疾患に医薬品の代替としてこれらのものが使われるということはない。
   また日本にてセキソビットの商品名で医薬品として認可されている排卵誘発剤のサイクロフェニールが日本において「果物の実から採ったサプリメント」として内因性のテストステロンの分泌を増加する目的で筋力トレーニング愛好者の間で広く流行したことがある。本剤はアメリカ合衆国では医薬品として認可されていない飲んでアメリカの筋力トレーニング愛好者の間でサプリメントして流行したことをそのまま鵜呑みにしたことである。後に筆者がセキソビットであることを雑誌を通して知らせたため事なきを得たが本剤の使用で女性化乳房を呈したものが多かったという。このようなエピソードは多く、後に横浜のサプリメント輸入代行業者が薬事法違反で検挙されるという事件も90年代後半にあった。
   さらにアメリカ大リーグのマグワイア選手が男性ホルモンの一種でテストステロンの前駆物質であるアンドロステンジオンをサプリメントとして摂取していたのは有名な話であり、これを受けてドーピング禁止薬にも関わらず日本の筋力トレーニング愛好者の間でもこれの使用をする人が多かった。
   また本年度の世界陸上前にオッテイら有名選手数名が蛋白同化ステロイドであるナンドロロンで陽性となり失格となったが、彼らはナンドロロン・デカノエイトを投与したのではなくサプリメントとして19-ノルアンドロステンジオン、19-ノルアンドロステンジオールを服用したためであった。日本人ボデイビル選手においても国内大会で同様の理由によって失格となったケースが昨年度みられた。
   このようにスポーツ選手の間でのサプリメントの使用が盛んであるが、本来栄養は食物摂取で得るべきであり、サプリメント信仰の風潮は好ましくないと筆者は思っている。なお、筋持久力の増強のためにクレアチンの摂取が盛んであり、もちろんこれはドーピング禁止薬ではなく、アメリカ大リーグのソーサ選手やマグワイア選手も使用を認めている。